2007年06月02日

〜Line〜(後編)

ロンドンに到着したのは明け方だった。
商会管理所が開くのを待って家を出て、手続きを終えた後も久々の街を歩き回ることもなく戻ってきた。
今頃ワキャックが飛ばした伝書鳩も商会の皆に届いている頃だろうか。

この日、OceanBlue_Roses商会から脱会した。

新たな道を進む為に。
自分で決めたことだったが、管理所で手続きをする時は流石に一瞬手が止まった。


自宅に戻って一息つくと、肩が幾分か軽くなった気がした。
それが嬉しいのか寂しいのか分からないまま、ぼんやりとソファーに横たわっていると・・・・・・。

「船長、船長、船長!!!」

不躾に扉が開かれ、同時にワキャックが飛び込んできた。
続いて執事が慌てて彼を止めようと飛び込んでくる。大方用件も告げないまま乱入してきた、ということだろう。
執事に下がるように合図すると、ワキャックはそのまま目の前の椅子に陣取った。

ケイロン「・・・・・・誰がしっかりしたんだったかな」

頭を押さえながら呟くと、今度は執事の後ろからゆっくりとした口調でもう一つの声が飛んできた。

Brute「貴方でないことだけは間違いありませんよ」
ケイロン「・・・・・・相変わらずの地獄耳と毒舌だな」

深くため息をつき、その勢いで起き上がる。

Brute「大臣より手紙が届いているようですよ。内容は多分、今ロンドン中の噂になっている話でしょう」

Bruteから受け取った手紙を裏返すと、確かに王室が使う蝋封印が押されている。

ケイロン「ああ・・・・・・ポルトガルとの戦の件だろうな」


封筒をひらひらと振っていると、机の上からペーパーナイフを持ってきたワキャックが奪い取り、有無を言わさず封を開け、そのまま突き返してくる。

ワキャック「船長!船長の気持ちが固まっているのは分かってます。 国の為に働く気なんてないことも。だけど・・・」

予想通りの内容が書かれている手紙に目を通しながら、その向こうの彼をチラと見る。机にドンと手をつき力説しようとしているらしい。

ケイロン「・・・・・・分かっている」
ワキャック「だから船員達の為にも、もう一度っ」


呟いた言葉は余りに小さすぎて彼には届かなかったようだ。
最初に、彼に自分の思いを伝えた時、激しく反対してきた。その後ゆっくりと時間をかけて彼に伝えたつもりだったが、今もまだ賛成はしていないのだろう。
・・・・・・その思いは分かっている。
そして彼が今、何を言いたいのかも・・・・・・。


ワキャック「船長との最後に・・・・・もう一度だけでも」

ケイロン「・・・・・・分かっているよ、ワキャック。分かっている」


薪の爆ぜる音だけがやけに大きく聞こえる。
彼が落ち着くのを待って、ゆっくり息を吐きもう一度口を開いた。





ケイロン「Brute、一つ頼みがあるんだが」

Brute「新しい大砲に、装甲、旋回に影響を与えない程度の大きさの補助帆については既に手配を終えてます。他に必要な物はありますか?」


この男はいつも人の考えの先を読んで手を打ち、それを自信満々に、けれど何でもないという顔で告げてくる。そしてその手は大抵的を得ているから始末が悪い・・・。

ケイロン「充分だ・・・・・・それだけあれば最後に一花咲かせられるかな」

ワキャック「船長、それじゃあ!!! っと、急いで皆に声をかけてきます! 港で待ってます!!!」

そう言うとワキャックは来た時と同じように騒がしく、全速力で廊下へと飛び出した。

Brute「しかし例え高性能な装備を整えたとしても、貴方程度の腕では大した活躍もできないでしょう」
ケイロン「多分、な」

苦笑しつつ答える。
彼はワキャックが座っていた椅子に腰を下ろすと、差していた細身の剣を目の前のテーブルに乗せた。柄と鍔には細やかな細工が施されているが華美な程ではない。間違いなく実戦用だ。

ケイロン「ロンドンで家業を継ぎ、商売人として働いているだけの癖に随分な物を持ち歩いているんだな」
Brute「手入れも行き届いてますよ」

そう言うと同時に中腰の状態から一気に鋭い切っ先を喉元に突きつけてくる。あまりの速さに微動だにすることも出来なかった。

いつかの船上と同じように・・・。

と、その事を思い出した時、喉元に剣を突きつけられている状況にも関わらず思わず笑いが込み上げてきた。そして、同じように笑いを堪えた顔をしている彼を見て噴出してしまった。

ケイロン「変わってないな」
Brute「貴方もですよ」

Bruteはそう言って剣を再びテーブルの上に戻して立ち上がると、ゆっくりと一礼した。

Brute「この剣は今の非礼のお詫びということで」

最初から餞別のつもりで用意してきた、ということか。

ケイロン「随分高い詫びの品だが・・・・・・」
Brute「勿論貸すだけです」

彼は最後にそれだけ言うと、用件は済んだとさっさと部屋から出て行った。「押し貸しかよ」という声も聞こえてはいないだろう。



*************

本当はここ、ロンドンで船乗りを引退するつもりだった。
「友人に陸での仕事を手伝ってくれないかと誘われてたから」というのが船員達にも話した理由だ。
彼は船長としてではなく、冒険家としての自分に期待していた。
ずっと・・・・ということになるかどうかは決めてなかったが、少なくとも数ヶ月・・・・・・短い期間ではないだろう。

だから船員達にはロンドンに着く前にその事を告げ、大見得きって一人ひとりに餞別を渡して別れたのだ。

それなのにだ。

その日のうちにもう一度召集されるとは、流石に誰も思っていなかっただろう。中には早々と他の船に乗る手筈をしてしまっている者もいたかもしれない。

・・・・・・しかし、船員達は一人として欠けることなく後甲板に集まっていた。



ケイロン「これが皆と行く、本当に最後の航海になると思う」

どこからか「本当かよーーー」という野次が飛んでくる。
苦笑しつつ言葉を続けた。

ケイロン「とりあえず、最後に、だっ!」

甲板のいたる所でどっと笑いが起こる。自分も笑いながら、ふと後ろを振り返った。


*************


遠ざかっていくロンドンの港。
そこから揺れながら続いている一本の航跡。
自分が確かにそこにいたという印は、やがて波間に消えていくのだろう。今まさに出来たばかりのこの航跡もまた・・・。


けれど前に進む限り、道はいつまでも自分達の後ろに続いて行く。この先に何があるのかはまだ分からないけれど。
・・・・・・それは船の上でも、陸の上でも変わらない。


ケイロン「行こう!!!」


大声で皆に指示をする。
そして呼応する声に後押しされ、甲板を蹴り一気に駆け出した。


そこに自分だけの道を描く為に。

posted by ケイロン at 23:59| Comment(1) | TrackBack(0) | ケイロンの航海物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
えーーと、臭くてすみません(笑)
妙な表現とか、また見直して書き直すかもです(笑)
Posted by ケイロン at 2007年06月03日 02:30
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