2006年05月18日

After an epilogue

〜運命よ、おまえの意志は人間には知るすべもない。
人間いずれは死ぬ、それは知っている、問題はいつ死が訪れるかだ。〜



――貴方は何を思いあの異郷の地で死を迎え入れたのか。


砂漠の荒野に、たった一つある墓碑。いや墓碑なんていう大層な代物ではない。「ここに死者が眠っているのだ」ということが分かる程度のものだ。
それでも埋葬されていただけましなのだろうが。

もっとも彼の骨はない。
彼の家の者達が、大枚をはたいて遺骨を取りに行かせ、改めて埋葬した為だ。だからあれは形だけの墓だった。もちろんそれは知っていた。


彼は―――私にとって何者だったのか。
彼の元で働き始めてすぐ母親は流行り病で勝手に亡くなった。帰る場所の無くなった私に対し、彼は労わる言葉も蔑む言葉も吐かなかった。
ただ使用人の一人として淡々と仕事を命じ、その際にも必要最低限な会話を交わすだけだった。
特別扱いされた記憶は一切なかった。いや、特別な厚遇を受けたことは一切なかったというべきか。彼は同世代の使用人達よりも、私に対してきつく当たることがしばしばあった。
噂好きの畜生達は影でそんな様子を「将来我が子の一人として育て上げる為の教育……」などと言いふらしていたが、彼には既に立派ないけ好かない子供達が片手に余る程いた。そんなはずもない。
それでも、彼の指示によって私の母親が丁重に埋葬されたという噂は立った。なけなしのお金で建てた簡素で平凡な墓だったにも関わらず。

だから私自身信じていなかった―――彼が本当の父親だということを。
それどころか恨んでいた、強く。


彼が何故普段取引のない遠くアレクサンドリアの街まで行き……そして、盗賊に殺されたのか。

大きな商売の取引の為という目的で行ったはずだったのだが、真実は違ったのではないか?という噂が出たのは、遺骨を回収しに行ったメンバーが発見した彼の数少ない奪われなかった遺品の手記のせいだ。
そこには、私の母親の名前、死ぬ原因となった病の名、特効薬があるという噂が書かれていたらしい。

けれど私は、私の母親の死さえも自らの商売のタネになると判断したのだと、そう思っていた。


その後彼の家の商売は、徐々に傾いていった。
私が家を飛び出さなくともそのうち放り出されるのは明らかだった。何しろあの家の者達は外聞を気にしつつ、チャンスがあれば直ぐにでも「正当な理由で」私を追い出そうとしていたのだから。

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2006年02月14日

ブルータスとBrute(後編)

Bruteがアレクサンドリアのどこで何をしていたのか。
ただ単純に羽を伸ばしていたのであれば、問い詰める必要もないだろう。
純粋に自分に対しての不満を理由にしたサボタージュであっても同じだ。
風紀を乱さない為に、皆の前で適当な懲罰を与えれば済むことだ。
だが・・・。

トン、トン。

ゆっくりとした間隔で2回、扉が軽く叩かれた。
「あぁ」と短く答えると同時に、扉が開き、普段と変わらない表情でBruteが姿を表す。
そのまま机の前まで歩いてきたところで椅子につくように言い、すぐさま詰問を始めた。

ケイロン「何をしていた」
Brute「大人の遊びというやつです」
ケイロン「如何なる理由があろうとも船長に背く行為は厳禁だ、というつもりはない。理由を聞かせてくれないか?
ちょっと奇麗な女性を見かけた、などと見え見えの冗談を言うはずはないとは思うが・・・・・・。
正直に答えてくれ。返答次第では、鞭打ちはともかく、なんらかの罰を与えなければならない」

机の上で組んでいる手に自然と力が入り、少し汗ばんでいるのが分かる。

Brute「だから鞭打ちで結構ですと」

大きくため息を吐いた。冗談を言っている顔でないことが余計に始末が悪い。
素直に語るとも思っていなかったが、やはり一筋縄ではいきそうになかった。

――― 夜は長くなりそうだった。

続きも長くなりそうですが……(笑)
posted by ケイロン at 01:23| Comment(4) | TrackBack(0) | Story of Brute | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月09日

ブルータスとBrute(中編)

無事にアレクサンドリアの港につくと、諸々の手続きを他の船員達に任せて、すぐさまBruteを誘って上陸用のボートに乗り換えた。
この間に何かを話そうと考えていた訳ではなく、Bruteも無言で櫓を漕いでいたので、気がつけば居心地の悪い空気が流れていた。

ケイロン「えーーー、えと。このまま書庫に行って、まずは仕事の情報、カエサルとクレオパトラについての情報を集めよう。そして・・・」

沈黙を破る為にとりあえず声を出してみたが、その後が上手く続かなかった。
そして・・・・・・自分は、彼は、どうしたいのだろうか。
結局そのまま会話は続くことなく、船は桟橋に着いた。
ロープを結びつけて船を固定すると、今度はBruteが沈黙を破った。

Brute「私は先に交易所に寄ってきてもいいでしょうか?」

金の管理をしているBruteは、普段街につくとまずは交易所の主人に相場の確認をし、売買の交渉をする。
そして積荷を船に運ぶ手立てを整えるのが、彼の陸での主な仕事だ。
ただ今回は、はなからアレクサンドリアで商売をするつもりはなかったので、下船の前に他の船員達にも伝えてある。
――もちろんBruteにも。

ケイロン「甲板でも言ったけど、今回は依頼調査の為に訪れただけで、積荷を購入する為に来たわけではない。だから交易調査はいい」
Brute「しかし、商売をするには市場調査が最も重要です。購入予定はなくとも、現在の値動きを見ておいて損はないかと」

表情は変えずに淡々とした口調で返事を返す。
確かに意見はもっともだとは思うけれど、ここで情報収集の際に彼がいないのであれば、何のためにこの仕事を受けたのか分からない・・・・・・が。

ケイロン「・・・・・・分かった。書庫の前で落ち合うことにしよう。自分は先に休憩所で一服やってから向かうことにする」

Bruteは「分かりました」と短く答えると、いつも通りの様子で交易所へと向かった。

『船長命令だ』とそのまま押し切れば従ったかもしれない。そうしなかったのは、彼への気遣いと一概に言い切れないような気がした。
多分彼の心に何らかの迷いがあるのと同じように、自分の心の中にも彼と接し方に迷いがあったのだろう。


――そして、後でこの時の判断を後悔することになった。

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posted by ケイロン at 12:59| Comment(0) | TrackBack(0) | Story of Brute | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月24日

ブルータスとBrute(前編)

「カエサルとクレオパトラの話は知ってるよな? 
クレオパトラはカエサルの力によりエジプトの支配権を手に入れた。
クレオパトラはエジプトの富をつぎこんでカエサルを歓待したんだろうな。
彼らにまつわる遺物を探してみないか? アレクサンドリアで調べてみてくれよ 」

−−−−−−−−−−−−

船室のハンモックに、体を斜めに寝転がる。この、コロン提督がカリブで見つけた現地人の寝具は、先日現地で買ってきた物だが、ふわふわとした浮遊感も心地よかったし、何より噂通り、少々の波が高い時でも、揺れをやり過ごしてくれるのが素晴らしかった。
最近では波が激しい海域に行く際に眠れなくなる新米船員の為にハンモックを準備しておくというのは、『よい船長』の常識となっているようだ。
いずれこの新大陸の道具は、全ての船に標準的に備え付けられる日が来るかもしれない。
といっても、うちの船はまだ船員達にこの新しい寝具を準備してやる程の余裕はなく、常用しているのは船長である自分だけなのだが。

Brute「一人だけのんびりとお休み中の所、申し訳ありませんが」

船長室にノックもせずに入り込む彼に咎めるような真似をしなくなって、もう随分と日がたつ。
こんな彼がいまだにうちの船に乗っていられるのは「まぁ、彼の発言にも正しいところはある」と、大人な対応というやつを身につけた我が人徳のおかげだ。
あと、確かに小言や遠まわしな嫌味が気にならないではなかったが、熟練の航海師であり船員達の心を掴んでいる彼を捨てるのは勿体無いという理由も大きい。
―――逆に『だから大人な対応をしなければならない』というのが腹立たしい限りだが。

Brute「『突然帆を上げろ舵をきれ』では、船員達に不安が募ります。そろそろ目的地を公表していただけないでしょうか。国の極秘任務でもないでしょうに」

読んでいた資料をサイドテーブルに上に放って、仕方なく半身を起こす。
が、資料はゆらゆらと揺れて机から滑り落ちた。

「ちぇ。・・・・とりあえず、進路はこのまま東でいい」

Brute「それですと私掠達が活動盛んな東地中海エリアに入ってしまいますが・・・・」

「目的地はアレクサンドリアだ・・・けど不満が?」

彼がアテネやアレクサンドリアに何かしらの思いを抱いているのは、何となく気が付いている。
そしてそれが多分ある特定の人物に集中しているということも。

Brute「いいえ。目的地さえ教えていただければ結構です。それでは皆に説明してきますので・・・・」

そう言うと床に落ちた資料を拾い上げようと手を伸ばした。
文字を上にして落ちた資料はきっとBruteの目に止まったのだろう。一瞬、手が止まった。

Brute「『カエサルとクレオパトラ』の調査ですか」

Bruteの、顔にも声にも特に変化はない。動揺した素振りも、あの手を止めた一瞬だけだったようだ。
何事もなかったかのように資料をテーブルの上に戻した。

「カエサルの遺物調査。確かブルート、君もカエサルやクレオパトラについて興味があったんだったね。カエサリオンについての調査に行きたいと言ってし。以前冒険に出たいと言って、船を下りようとしたのも実は・・・」

Brute「関係ありません」

「そうか・・・・。ちなみに、君の名前ブルートってのは結構珍しい名前じゃないのか?
確か、獣、畜生、残忍・・・といったような意味があるとか・・・・・そしてラテン語で発音すると、ブルータス」

Brute「・・・・・・・・」

表情は変わらない。怒り出すか嫌味の一言でも言い出すかと思ったが、口を閉じたままだ。

「君も知ってると思うが、最近流行しているあのシェイクスピアが作った戯曲『ジュリアス・シーザー』にブルータスという人物が出てくるんだ。彼は史実通り、シーザーを暗殺する。そして、シーザーは殺されるされる間際に、こんな台詞を吐くんだ。『ブルータス、お前もか』と」

Brute「船長はいつの間にそんな高級なご趣味を身に付けられたのでしょうか。
話が急すぎて何をおっしゃりたいのか分かりませんが、私はラテン語の知識はもとより、演劇なんてものにも興味はありません。
加えて、昔の反逆者や偉人などにも、何の興味もありません。」

「そうか」

Brute「他に用がないのであれば、そろそろ船員達に説明に行きますが」

それ以上の問いかけを拒むように言葉を遮った。

「あぁ・・・すまなかった。今回、上手く行けばカエサルのお宝を拝めるかもしれない。
そう皆に伝えて、士気をあげといてくれ」

Bruteは「了解しました」と軽く頭を下げて、踵を返し部屋から出て行った。


−−−−−−−−

以前、ある街の小型劇場でシェイクスピア原作の芝居を見たのは、本当に偶然だった。

トリスタンに関する調査ではいろいろと無理難題を押し付けてきたシェイクスピアだったが、そこそこの調査費用をくれていたわけだし、おかげでトリスタンの剣を発見することが出来たので、多少恩を感じていた。
なので、一度機会があったら彼の作品を見て見たいと思っていたのだけれど、実際あの作品を見たのは、はなからそれが目的だったわけではない。劇場の入り口側の看板の前で足を止めたのは、彼の名前を見つけたからではなかった。
留められている羊皮紙には、凝ったレタリングで見覚えのある名前が描かれてあった。

『Et tu, Brute』


劇場に入って分かったのだが、その看板の文字は演目ではなく、ジュリアス・シーザーの劇中でシーザーが倒れる間際に叫ぶ名セリフを載せていたものだった。


ジュリアス・シーザー。冒険者ギルドではユリウス・カエサルという名前で統一されているが、貴族や裕福な家では、もうこちらの名前の方が知名度があるのだろう。シェイクスピアが書いた、実際のローマ史実をもとにした戯曲の名前だ。それをもとに多くの演劇が催されているらしい。
主役はタイトル通りシーザーなのかと思っていたが、意外にもブルータスの視点で描かれているらしい。そして、スト―リーはこんな話だった・・・・。

***

富も権力も、絶世の美女と言われるクレオパトラも手に入れたシーザー。そして、その彼に寵愛されていた高潔の人ブルータス。

舞台は、順風満帆なシーザーのもとに訪れる占い師の予言から始まる。「3月15日に注意されよ」と。
カエサルは力を持っていた――それは下手をすれば皇帝と呼ぶに相応しい程の。そんな彼に対し民衆は希望と不安、複雑な思いを抱いていた。
そして反カエサル派の一人が言葉巧みにブルータスを勧誘する。「独裁者の座を狙っているカエサルを、ローマの共和制の為に討て」と。
ブルータスには我が子のように扱ってくれていたカエサルを殺す理由などなかった。けれどローマの、共和制の、市民の為には彼を殺さなくてはならないという相反する思いに苦しむ。
・・・・けれど3月15日。彼は敬愛するカエサルに剣を突き刺す。
そんな彼の行動に対しローマ市民は最初は喝采で迎えたが、カエサルの有能な部下の煽動で、すぐにブルータスらは反逆者として迫害するようになる。
そして、結局ブルータスは追い詰められ、カエサルを殺したその剣で自殺する・・・。


−−−−−−−−


右舷の窓に、白亜の建物が見えてきている。
もうアレクサンドリアは目と鼻の先だ。

自分が甲板に出なくても、Bruteが船員達に指示を与え、寄港準備をしている頃だろう。
もちろんポルトガル国籍の船だと思われないような偽装工作も終わっているはずだ。

船員達に慕われ、また船長である自分も(とりあえずは)一目置いているBrute。
ローマ市民に慕われ、カエサルから寵愛を受けていたブルータス。

もちろん全く同じという訳ではない(本家本元のブルータスがあれ程性格が悪かったわけはないだろうから)だろうが、演劇を見ている間、目の前にいるブルータスとBruteがオーバーラップしていた。

あの日のBruteと。


************


中の人の独り言を読む
posted by ケイロン at 23:36| Comment(2) | TrackBack(0) | Story of Brute | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年11月01日

商人語と欲望教

(注:この日記も、ちょっと(かなり?)前の話を書いています。ちなみに、今回はBruteの日記だったりします。ようやく最近の話に辿り着きます。)

――Bruteの日記――


「折角商人になったのだから、商人らしい格好をしないと!」
と張り切っていた船長は、早速ベネットさんに伝書鳩を送ったようだ。

何事も形から入るタイプらしい。
まぁ、確かに聖王の鎧という由緒正しき華美な鎧を着込んで、交易所の店主に値段交渉するのは無粋というよりも、脅迫に近い物があるだろうから、服を変えるという意見には賛成なのだが。

Ranzo船長、ダイヤ貿易連れて行ってくれないかなー」
と、早くも一攫千金を狙っているのはどうなのだろうか。
最近の様々な名産品がヨーロッパ近海にも流れてくるようになり、多様化する貿易を肌で味わってみたいとか言って、船員達に宣言していのはどこの船長だったのだろうか。


−−−−−−−


ケイロン「急な話やけど、今からインドに向かおー思うてな。目的はもちろんお宝やな。インドっちゅー楽園は、胡椒の他にも珍しい織りモンやら、赤い宝石、青い宝石、極上の香りの素・・・・とにかく、こっちに戻って売っぱらえば金貨に化ける品モンが、ぎょーさんあるらしいんやわー」

ケイロン「ほんま胡椒なんてーのは、吸ってハクション!てなぐらいゴロゴロ転がっとるっちゅー噂やで。ほな行ってみたろゆーか、やっぱり行かなあかんと思うやんかー、やっぱなー。商人としてな」

どこで覚えてきたのか、奇妙な言葉使いを、悦に入って早口でまくし立てている。
これも「形から入る」の一環なのだろうが、正直鬱陶しいと思っているのは私だけではないはずだ。

ケイロン「ってか、ハクションにツッコミはないんかいっ!ボケたらツッコミ入れるのは人情ちゃうで?義務やねん。お前らそんな基本、学校で習ってへんのか、ボケ!あん、行ってない?さるまた失敬・・・・ってボケは流石に多分わからへんやろーなぁ」

ケイロン「お、そこの君?笑った?笑った??君、ええもんもっとるなー。いや酒場で一目会った時から目つけとってん。ほんま君は磨けば光るモンもっとる!まぁ、胡椒もゴマも磨くもんやのーて擂るもんやけどな!」

もちろん誰も笑ってなどいない。顔も合わせていない。
観劇などである「一人芝居」というやつだろう。
船員達は口を挟むつもりもなく、というよりも最早聞く耳持たずに自分達の仕事を黙々とこなしていた。

マルセイユで先程伝書鳩を送ったお二人と、更にはCAFE-de-Genovaの商会長Sanative=Vixen氏と合流し、一路カリカットを目指すとのことだったが、流石に他の船長達に対してこんな滑稽な真似はしないとしても、この船上で何十日もずっとこんな調子で海上を進むというのは正直気が滅入る。何とかならないものだろうか。

−−−−−−−

そして、マルセイユ・・・。


くだんの船長達と無事合流し、ついでにインドの「シヴァ」という神についての調査をすることになり、一路インド洋へ向かった訳だが・・・・・。

ケイロン「あきまへん、あきまへんわー。どー考えても、水が足りまへんやんか。ちょっと他のみなさんとこの船は水、どないしてはるんやろう。調達?海上で?雨水?飲まれまへんって、雨水なんて。酸性雨でっせ、酸性雨。あれ?この時代はまだ水は奇麗なはずだって?っていうか、あんさん誰やねん!」

今日も海は穏やかだ・・・・。

ケイロン「ちょっと待てぃ!そこの英国紳士気取っとる、おっさん!」

「・・・・・・」

ケイロン「ちょっと待って言うてるやんかー。なぁ〜、ブルちゃん」

「・・・・・・」


−−−−−−−

そして、遺跡発見後・・・。


ケイロン「やっぱ、冒険はええで、冒険は!いや、ブルちゃんも見たやろ、あの遺跡!」

「ええ・・・・」

ケイロン「シヴァだけにシバいたろかって程チンケなもんかと思いきや、ごっつい素晴らしい出来やんかー。ここら辺のおっさんらもなかなかやるもんやなー」

「・・・・・・」

ケイロン「まぁ、超現実主義で、趣味は他人をからかうことっちゅーブルちゃんには理解できひんやろうなぁ、この魅力、この浪漫、この感動!」

「・・・・・・」

ケイロン「あれ?怒っとる?怒っとる?なー、怒っとんかー?」

「・・・・・・船長。交易の方は如何なさるお積もりでしょうか」

ケイロン「ばっちり任せときなはれ!泥舟に乗ったつもりで、って泥舟じゃあ沈むっちゅーか、泥で船こさえとる暇あんなら、冒険、冒険!今日も冒険、明日も冒険、冒険週間や!え?いつ交易するんやねんって?ええツッコミ、おおきになー!」

「・・・・・・」

−−−−−−−

そして、海戦中・・・・。


「船長!海賊に囲まれてます!艦隊の皆さんがいる時ならまだしも、我が船一隻、敵は囲んできてます。祖国へ運ぶ為の積荷も満載している今、無理は禁物です。停戦状を送り、一旦体制を立て直し、もう一度ゆっくりと・・・」

ケイロン「あかん、あかんて、ブルちゃん。こうみえてもわいは修理のケロちゃんやで?伊達に模擬戦で腕鍛えてへんねん。船尾狙えるもんなら狙ろうてみんかい!って、あれ・・・・・船尾食らっとるがな!あかんやん、あかんやん、ブルちゃん!沈むぅ〜、沈んでまう〜。」

−−−−−−−

そして、銀行前・・・。


ケイロン「ほら、Ranzo船長がゆーてましたやろ?自らの欲望には正直に従わなあかんって」

「それで、船長は一体何をなさってるんでしょうか」

ケイロン「お宝探しやて何回ゆーたら分かるんかい、ボケ!カス!・・・てのは、自分自身にゆーてるんやで。ブルちゃんにそんな滅相もないこと言うわけがないがな!」

「・・・・・他人が処分したものを集めてらっしゃるように思われるのですが」

ケイロン「元手タダやで、タダ!ここらへんのおっちゃんら、絶対×××やわー。売ればザクザクお金になるのに、こんな道端に置いとくのは、ほんま××やで!間違いないっ!」

「・・・・・他の皆さんが特異な者を見る目をされているように思うのですが」

ケイロン「掃除や、掃除!ほら、わい、自慢やないけど、育ちとかええほうやろ?奇麗好きやねん。血がそうさせんねん、血が!いや、というか欲望教の神さんがゆーてまんのや。拾え〜、拾え〜言うてな。ほな、しゃーないやん?神さんに従わな誰にしたがう言うのん?しゃーないやろ?しゃーないやろ?ほな、ブルちゃんも手伝ってんかー。あっちに、ほらそこっ!良さげなモン落ち取るやろ?拾ったり、拾ったり!」

−−−−−−−

そして、母国へ戻ってきて・・・。


ケイロン「やっぱRanzo司祭様の言う通りやで?ファロの交易所のおっさんなんか、ビビりまくってんで!こんなたくさんの珍しい品々を産まれて初めてやって!」

「確かに、かなりの交易経験も積むことが出来ましたね」

ケイロン「せやろー、せやろー?これも帰り道、万全の注意を欠かさず導いてくれたRanzo司祭様と欲望神さんのお陰やで。やっぱ欲望には忠実にってことやねん。神さん、おおきになーーー。今度拾ったモン、お供えしときますわー。もちろん元手はタダやで、タダ!!」

ケイロン「しっかし、これでブルちゃんも入信決定やな。っていうか、手続きもう済ましとったさかい、心配せんでええ。何も難しいことやあらへん。気が向いた時に気が向いたことをするだけやねん。後はこの特性の壷を買うだけで立派な司祭に・・・ってのは嘘やて、う・そ!この壷はその辺の交易所のおっちゃんが売ってたふつーの陶磁器や!分かっとった?なぁー、分かっとった?なぁー、ブルちゃーーん」


「・・・・・・・・・」


−−−−−−−

そして、今・・・。


リスボンの酒場で一人、ゆっくりとグラスを傾けている。
休暇を申し出たのは、こんな経緯があったからだ。
船長へは「個人的に調べたいことがあるので冒険をしたいから」と言っておいた。
あながちまるっきり嘘という訳ではない。
以前から「彼」についてのことを、そろそろ調べておきたいと思っていたのだ。幸い、各地の書庫の学者達とは船長と共に足を運んでいたりもしたので、顔はきくはずだ。
リスボンで情報収集も出来たことだし、早速明日にでも出航所に向かい・・・・。

そんなことを考えながら目の前のテーブルにグラスを起き、一息ついたとき・・・。

ケイロン「こんにちは」

「!」

突然目の前に現れた船長に驚愕した。

「何をしているんですかっ!」

ケイロン「いや、セビリアの依頼仲介人に【バアルの宝玉】という面白そうな仕事を紹介してもらえてね。折角だからってことで、商人から勢いで財宝探索家に転職届を出してしまったんだ」

口調も元に戻っていた。

「そ、、、それで?」

ケイロン「折角冒険家に戻ったことだし、Bruteも冒険したいって言ってたし。それならついでにBruteが調べたがってた件も自分が調査してあげようかなって思ってね。もちろんBruteと違って右手は差し出さないから大丈夫だよ」

正直知識も経験も船長の方が勝っているのは間違いないわけだから、船長に手伝ってもらった方が効率はいいとは思っていたが、極めて個人的というか、妄想的というか・・・・・冒険の目的の詳細を話すとなれば、滑稽な話になるだろう。あまり口にしたくはなかったので、上手く断ろう決めた。

「しょ、商人としての経験を積むという話は・・・・」

ケイロン「だって、ベネットさん達と行った遺跡、凄かったから・・・・。冒険家としての血が騒いだというか・・・・早く冒険家として頑張りたいなーと。でも、あれかな。ここは冒険の仕事はぐっと我慢して、やっぱり商人として努力するべきかな・・・・Bruteはどう思う?」

「ベネットさんに依頼された商人用の服はまだいただいていないのでしょう?折角作っていただくのに・・・」

ケイロン「あれはまだ準備していないって言われたので、ついでに冒険家の服に変えてくださいってお願いしといたから大丈夫」

「というか、貴方は欲望教に入信されたはずでは?ですから、折角ですが商人として・・・・」

ケイロン「そうか・・・そうだよな。欲望教は『欲望に忠実』でなくてはならないからな!冒険したいという気持ちに忠実に動けばいいんだよな!自分が進む道に間違いはないと!そうと決まれば早速【バアルの宝玉】を見つけに行かないとな。今日も冒険、明日も冒険、てね!」

最早何を言っても後の祭りだと気がついた。
そして勝手に自己完結してしまったらしい船長に急かされ、酒場を後にした。
もう日も暮れているというのに、これから出航準備を行うつもりらしい。
どうにもこうにもマイペースというか強引というか。


まぁ、あの奇妙な商人語(?)を聞かなくて済むのであれば「まし」と思うことにした。
とりあえずまた直ぐに商人に戻ると言い出さなければいいのだが。。。。

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2005年08月11日

Bruteの依頼

Brute:「船長、今、大丈夫ですか?」

いつもと違う神妙な顔でやってきたBruteに、机の上でぼーっとしていた自分は少し背筋を伸ばした。

「な、何か用?」

一歩、二歩、三歩。
いつもならそこまでの時間で、遠まわしな嫌味をスタートさせてくるBruteが、今日に限っては黙ったままで近寄ってきた。どこか普段と違う感じがする。

―――この タメ っぷりからして、物凄い怒っていたりして・・・・・。

心の中であれこれ思い当たる節を探してみるが、最近はそれ程激怒されるようなことはしでかしていないはずだった。
黙ったまま机の前に来たBruteは、予想に反して平穏な口調・・・というより、若干居心地が悪いような様子で視線を合わせずにボソボソと答えた。

Brute:「いえ、、、、あ、いや、はい」

この回答を聞いて安心した。どうやら怒っているわけではないようだ。
しかしBruteの様子が気になった。いつもならこんな曖昧な答え方はしない。
曖昧なことを言う時だって、こっちの話を引き出すような台詞を言って、最初はあえて逃げ道を用意し、徐々に嫌味を言う流れにもっていくように仕掛けてくるような奴だ。

「・・・・。用事?それとも悩み事?」

ここで「ちゃんとした用事でないなら、後でもいい?」なんて言って普段の逆襲を試みても良かったんだけれど、様子が違い過ぎるBruteへの興味の方が勝った。

―――これが奴の作戦なのかもしれない

とは思わないでもなかったが。


−−−−−−−−−−−−−


『カエサルとクレオパトラの息子について教えて欲しい』

Bruteが自分に話したかった内容は、いわゆる想定の範囲外というやつだった。
「クレオパトラの息子」の調査に関する仕事は、一時期Bruteに商売の勉強をさせていた間に、自分がこなしていた仕事の一つだった。
他の船員達からその時の話を聞いたのだろう。

確かカエサルは詳しくは知らないけれど、古代ローマの政治家にして、よく書庫なんかで見かけるあの有名な「ガリア戦記」という本を書いた人物だったはずだ。確か、晩年は独裁者として君臨しようとしていたが為に反対派から暗殺されたとか。
またクレオパトラといえばなんといってもエジプトの女王。敏腕な政治家にして、絶世の美女。
そして、その秀れた二人の血を受け継いだ子供、カエサリオン。

この組み合わせでどんな貴重な依頼を紹介してくれるのかと思っていたが、ふたを開けてみればその内容は、カエサリオンはカエサルとクレオパトラとどっちに似ているのか?という下世話な話だった。結局、アレクサンドリアの西の荒地でカエサリオンの大理石像を発見し、それを依頼人に報告して終えたはずだったが・・・・・。


なぜカエサルとクレオパトラの息子に興味があるかについては、適当なことを言って誤魔化そうとしていたが、何か思うことがあるようだ。
一体全体、Bruteがこの話の何について知りたいのか。。。。。紀元前の人間の顔が両親のどっちに似ているかなんて話を・・・・・まさかあの現実主義者な奴が考古学のロマンに目覚めた・・・・ってのは考えにくいけれど・・・・。

とりあえずあの時のメモを漁ってみるからといって自分の船室に戻ってきたものの、この机の上にできている羊皮紙の山からお目当てのネタを探すのは困難というか、無理というか。。。。
かと言って、そんなことをBruteに言おうものなら・・・・。

Brute:「だから普段整理した方がいいと言っているのです。探したい物があっても、こんな状態では探せないのは必然でしょう。なんで書いたら書いたで、分類分けして、纏めて括っておくといったような作業をしないのか、私には理解に苦しみますが」

と、誰の為に探しているのかってのは物凄い遠くへ置いてきたまま、愚痴愚痴言ってくるに決まっている。だいたい奴ときたら・・・・。


・・・・トントン・・・・

−−−−−−−−−−−−−

「え?」

Brute:「だから、もう調査の方は結構ですと申し上げたんです」

「・・・・・え?」

Brute:「その耳は飾りなんですね、分かりました。最後にもう一度だけ言うので、唇の動きから理解してください」

「いや、読唇術なんてものはマスターしていなから無理だって。というか、Brute。カエサリオンの顔について聞きたいって言ったのは、ついさっきだろ?なんぼなんでも、こんな短い時間で見つけ出すってのは・・・・」

Brute:「依頼自体を撤回させていただきます。一時的な感傷に流されて、物事が良く見えていなかっただけです・・・・・・こんなごみ箱みたいな大量のメモの中から、たった1枚の資料が見つかるなんてことを期待する方が間違っていたと気が付きましたので」

「・・・・・」

Brute:「そもそもカエサリオンという方がどのような方だったか、聞きたいと言った自分は馬鹿げていたと思います。少し甲板で頭を冷やしてきます。ということで、辺りの警戒は私が引き受けさせていただきますので。では、失礼します」

一方的にそう伝えるとBruteは何事もなかったかのように、足早に部屋を後にした。
後に残された自分は、机の上のメモ用紙に再び目線を戻した。

一体どういうことなのか、さっぱり分からなかった。

Bruteの独り言を読む
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2005年06月02日

Et tu, Brute?

船員「船長!覚悟っ!!!!」

ドタバタと音を立ててやってきた船員は、勢いよく扉を開けると一部が異様に赤く光っている剣の切っ先をあろうことか、自分に向けてこう叫んだ。

「何でまたこんなことになってしまったんだ・・・・・」

彼に問い掛けるとも独り言とも取れる程度の弱々しい声で呟いた。

−−−−−−

先日古代の集落を示した地図を偶然手に入れた自分は、あの日、意気揚揚とアムスを出航した。
海は凪いでいるし、天気もまずまず、風もいい感じに吹いており、絶好の航海日和だった。
進路は北東、目指すはオスロにある古代集落の跡地だ。

ところで、航海中の船長は誰もみな同じ・・・・かどうかは知らないけれど、結構暇な御仁が多いのではないだろうか。
見張りや船倉の管理なんて雑用は船員がやってくれるし、船だってその日の風を読み大まかな指示を船員に言っておけば、あとはそこそこ上手く風を掴んで帆をコントロールしてくれる。
戦となれば話は別で、「あっちに旋回!少しだけ帆を畳んで、こっちに旋回!帆を広げて全速力で逃げろ!!」ってな具合に細かく指示は出したりするものの、そういった緊急時以外は大抵暇をしている。
だから洋上で船とすれ違う時、船長が趣味で投げ釣りを楽しんでるって光景をよく見かける。出航する際には大して食料を購入せずに、釣った魚を捌いたりして食料の足しにするって人もいるらしい・・・まぁ、そんな人は既に趣味のレベルではなくプロってやつなんだろうけど。

自分はというと疲れない程度にボチボチと釣り糸で海をかき回したりするだけなので、いつまでたっても「趣味程度の腕前」だから、もちろん船員にもあてにされていない。真面目に釣りをしていなくても文句を言ってくるやつはいないし、釣りに疲れたら羊皮紙にこんな金にもならないような文章を書いたりして過ごしているわけで。


ってことで、今日も船室の部屋に篭って物書きをしていた。そして調子に乗ってサクサクと書き始めた時、突然控えめな感じで扉が叩かれた。
扉の向こうには古参の船員が頭を掻きながらバツが悪そうな顔をしていた。
名前は・・・・人の名前を覚えるのは苦手だ・・・・・とりあえず心の中でブルーと呼んでおこう。

ブルー「えっと、お仕事中の所、申し訳ありません。あの、、、ですね。若い奴らが今日の給料はまだかって騒いでまして・・・・・」

「え?給料か、忘れてた、忘れた。ここに・・・・・って、あれ?」

腰に下げていた袋を見て、いつもより明らかに膨らみがないことに気が付いた。


ブルー「船長?」
「あっ、そういえば・・・・」

数日前に気づいたことだったが、そもそも補給の為に寄ったアムスで、交易所に寄ったのが不味かった。持ち金はたいて交易品を買い占めたまでは問題なかったのだが、その後銀行でお金の補充をするのを忘れていたのだ。

発端


腰元の袋を触ったり、机の中を掻きまわしてる姿を見て何かを察したのか、ブルーは「っと、では私は見張りに戻ります」と苦笑を浮かべながら部屋から立ち去った。
こんな時、元々海の荒くれ者達だった船員達にどうやって説明したらいいのか・・・。
楽器を演奏して船員達の気を紛らわせようとか、豪華料理を振舞おうとか、いろいろと考えてはみたものの根本的な解決にはならないだろうってことは分かっている。

「しかし、しまったなぁ・・・・何とかしなければ、何とか。
お金・・・・洋上でお金なんて・・・・・。お・・・お、金!!」


その時、ふと閃いた。閃いてしまった。。。。そして、その閃きを待っていたかのように、第一の事件が発生したのだ。突然扉が開き、見張りをしていたはずのブルーが現れた。

ブルー「船長、右手前方2時の方角に海賊船2隻!どうしましょう!!」

第一の事件

−−−−−−

結果は散々だった。
普段なら相手と間合いを取りつつ、敵船の様子を伺い、砲撃力、推進力なんかを想像して、いつでも逃げる為のルートを考えた上で戦っているのだが、今回は「金を略奪!」ってのが頭にあったせいで、完全にタイミングを誤った。

あっという間に砲撃で迫られ、白兵戦に持ち込まれ、船員達はバタバタと倒れていった。
何とか相手の船長にポルトガル国王印の入った停戦状を持ちかけて戦闘から離脱したはいいが、時既に遅し。船はかなり痛み、船員も多くの犠牲者を出してしまっていた。
けれど、船はいつもと比較にならない程遅くはなっていたが、なんとか動けるレベルではあったし、道具や積荷に被害がなかったことを幸いと思うことにした。

そして、またいつものように暇潰しを兼ねて筆を取ったのだ。

・・・・こうして、起こるべくして第二の事件が起きた。

第二の事件

ブルー「船長!新入り達が反乱を起こしましたっ!!!!」


突然開け放たれた扉の向こうに、ブルーが血相を変えて立っていた。


ブルー「船長、早く!場を仕切るのは船長である貴方の仕事です!!」

ブルーは普段は腰につけているショートソードを構えたまま、入り口のドアの向こうに注意を払っている。確かに天井でドタバタした足音が響き、たまに埃が落ちてくる。大きな声と金属音は、部屋の入り口からそれ程遠くない所から響いているようだ。
というかそれ程大きくない船内で、何故ブルーが呼びに来るまでこんな状況に気が付かなかったのかが不思議なぐらいだ、我ながら。

「っというか、そもそも何で反乱なんて!飲み水だって、食料だってたっぷり積んであるだろ?どこに文句があるってんだ、まったく・・・・・」

ブルー「給料です」


「う。け、けれど、まだアムスを発ってから数日しか経っていないじゃないか。オスロに着いたらすぐに銀行に行ってお金おろしてくるし、酒だって飲ませてあげるってのに・・・」

ブルー「先日の戦の疲れも残ってるし、多くの人手を失ったせいで、船を進ませるのだって今までの倍以上の労力がいるんです。そんな状況下で、もともと給料について不満を漏らしていた若い奴らがまとまって・・・・」

船員の反乱なんて初めての出来事だったし、こんな時に有効らしい懲罰用のロープは、この前荷物が多すぎて町の道具屋に売っ払ってしまったばかりだった。心臓は激しく脈打ち、頭はクラクラしてきた。もう何を話しているのかも良く分からない。ウロウロと周りを見渡して、部屋の隅に置いてあった清掃用のモップを掴んだ。

「いや、ほんとお金がないって訳じゃあないんだから。銀行にはたくさん預けてるし。ほら、冒険者一筋の自分にとって、刃物はやっぱり危ないし、大事な船員を傷つけるのは良くないしさ。なんと言っても経費の・・・・って、もういないんかい!

こんな船長に呆れたのか、頼っても意味がないということに気がついたのが、振り返った時には既にブルーの姿は見えなかった。
仕方なく一人で恐る恐るモップを構えて甲板にあがってみると・・・・何故か先程までの喧騒が嘘のように静まり返っていた。

甲板に横たわる4つの体。
囲むようにして船員達が物も言わずにじっと『それ』を見ていた。剣や服は鮮血で濡れていた。
「こ、殺さなくても・・・・・」という言葉が口からこぼれた。
残った数人の船員達は一斉に自分を見た・・・いや、睨んだのだ。
けれど、すぐに誰も何も言わずまた再び『それ』に視線を戻した。
この時初めて『船員の反乱』というものはこういうものだということを知った。

・・・・・けれど、それはもう手遅れだった。


−−−−−−

第三の事件

船員「船長!覚悟っ!!!!」


襲い掛かってきた船員の剣をすんでのところで交わした自分は、その顔を見て驚いた。
いつも緊急な要件が起きた際には、誰より先に自分に知らせてくれていた、あの船員ブルーだった。

ブルー「何でこんなことにだって?全ては自分が巻き起こしたことだろう!!給料を支払わず、無茶な戦をして多くの仲間を殺したのは誰だっ!反乱を鎮める為に戦うのは間違っているってのか!誰も殺したくて殺した訳ではではない。ずっと寝食を共にしてきた仲間をこの手でなんてっ!!」

・・・・・何も言い返さなかった。
切っ先から真っ赤な血を滴らせた剣を喉元に突きつけられていたからではなく、言い返す言葉がなかったからだ。・・・・けれど結局、彼はその剣を突き刺しはしなかった。

彼の剣についていた血は、最後の反逆者から船長を守る為に付いたものだった。


二人っきりになったボロボロの船は波間に漂っていた。
彼の信頼を完全に失っていることはもう嫌という程分かっている。
殺さなかった理由も許されたなんてもんではなく、多分殺す価値がないとでも思ったからだろう。
船倉に詰まれたままの交易品も無事に街まで辿り着けなくては、この大海原では一銭の価値もないのだから。

お互い黙ったまま、甲板に横になって空を見上げていた。
雲ひとつない美しい朝だった。
遠くにカモメの鳴く声が聞こえている。

このまま穏やかに最期の時を待つのも悪くないかと思った。

・・・・けれど、本当にこのままでいいのだろうか?
まだ生きているのに・・・・。
道はまだ続いているのに・・・・。

伝書鳩はいる・・・声だって出せる・・・・・・まだ諦めるには早い!

「誰か!誰かいませんかっ!!助けてください!!
誰かいませんかっ!!!」


声の届く範囲なんてたかがしれている。船影も見えないのに、叫んだって意味がないことは分かっている。けれど力の限り叫んだ。何度も何度も叫んだ。
彼はそんな私を非難することも、目を向けることもなくただ空を眺めているだけだったが、私は諦めずに叫び続けた。


水平線の向こうに船影が現れたのは、それから数時間後だった。

独り言?を読む
posted by ケイロン at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | Story of Brute | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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