2007年06月02日

〜Line〜(後編)

ロンドンに到着したのは明け方だった。
商会管理所が開くのを待って家を出て、手続きを終えた後も久々の街を歩き回ることもなく戻ってきた。
今頃ワキャックが飛ばした伝書鳩も商会の皆に届いている頃だろうか。

この日、OceanBlue_Roses商会から脱会した。

新たな道を進む為に。
自分で決めたことだったが、管理所で手続きをする時は流石に一瞬手が止まった。


自宅に戻って一息つくと、肩が幾分か軽くなった気がした。
それが嬉しいのか寂しいのか分からないまま、ぼんやりとソファーに横たわっていると・・・・・・。

「船長、船長、船長!!!」

不躾に扉が開かれ、同時にワキャックが飛び込んできた。
続いて執事が慌てて彼を止めようと飛び込んでくる。大方用件も告げないまま乱入してきた、ということだろう。
執事に下がるように合図すると、ワキャックはそのまま目の前の椅子に陣取った。

ケイロン「・・・・・・誰がしっかりしたんだったかな」

頭を押さえながら呟くと、今度は執事の後ろからゆっくりとした口調でもう一つの声が飛んできた。

Brute「貴方でないことだけは間違いありませんよ」
ケイロン「・・・・・・相変わらずの地獄耳と毒舌だな」

深くため息をつき、その勢いで起き上がる。

Brute「大臣より手紙が届いているようですよ。内容は多分、今ロンドン中の噂になっている話でしょう」

Bruteから受け取った手紙を裏返すと、確かに王室が使う蝋封印が押されている。

ケイロン「ああ・・・・・・ポルトガルとの戦の件だろうな」


封筒をひらひらと振っていると、机の上からペーパーナイフを持ってきたワキャックが奪い取り、有無を言わさず封を開け、そのまま突き返してくる。

ワキャック「船長!船長の気持ちが固まっているのは分かってます。 国の為に働く気なんてないことも。だけど・・・」

予想通りの内容が書かれている手紙に目を通しながら、その向こうの彼をチラと見る。机にドンと手をつき力説しようとしているらしい。

ケイロン「・・・・・・分かっている」
ワキャック「だから船員達の為にも、もう一度っ」


呟いた言葉は余りに小さすぎて彼には届かなかったようだ。
最初に、彼に自分の思いを伝えた時、激しく反対してきた。その後ゆっくりと時間をかけて彼に伝えたつもりだったが、今もまだ賛成はしていないのだろう。
・・・・・・その思いは分かっている。
そして彼が今、何を言いたいのかも・・・・・・。


ワキャック「船長との最後に・・・・・もう一度だけでも」

ケイロン「・・・・・・分かっているよ、ワキャック。分かっている」


薪の爆ぜる音だけがやけに大きく聞こえる。
彼が落ち着くのを待って、ゆっくり息を吐きもう一度口を開いた。





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2007年05月31日

〜Line〜(前編)

胸を高鳴らせタラップから甲板に飛び移ったあの日。
眩しい朝日に目を細めつつ、停泊している巨大な船の隙間を縫うように小さなバルシャで船出したのがまるで昨日のことのように思えた。
といっても最初に街でかき集めた船員達の顔は、もうほとんどが朧げにしか思い出せないのだけれど。
―― ある者は船を降り、ある者は海の底で眠った。

長く航海をしていれば、幸せなこともあったし、辛いこともあった。
水も食料も尽き、また病気や不注意の為に何人の男達を犠牲にしたのだろうか。
それでも彼らの多くは、自分を信じ、自分の為に船を進ませてくれた。
どこにいても幸せにと願う気持ちは、かつて一緒にいた者達にも、もちろん今この船に乗っている者達にも同じだけ思っている。

テーブルの上に大量に積んだ布袋を無理矢理押しのけてスペースを作り、机の上に突っ伏しながら深いため息を吐く。

「まだまだやるべきことがたくさんある」

自分に言い聞かせる為にわざと声を出す。
しかし分かってはいてもなかなか事は進まなかった・・・・・・その理由も分かっていた。

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2007年04月13日

アントワープの幻にゃ

それは一つの奇妙な依頼から始まったにゃ。

『あれを作ってくれー、というものでもないんです。もちろん誰々の船沈めてこい、なんてのでも』


という前置きから始まったんだにゃ。
そして彼女は静かにぃ、自分のにゃかで一つ一つの言葉を噛み締めるように小さな声でそう言ったのにゃ。

『・・・・・・とある噂の真相を調べて欲しいのです・・・・・・何分勇気が出ないもので。。』

いつもの彼女と比べるとどこか元気のにゃい、いや、はっきりとしにゃい言い方だったにゃ。


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2007年02月16日

彼への手紙

ある日。
少年はいつものように友人のもとへ遊びにいこうと家を飛び出し走っていた。そして見慣れない物が道の真ん中に落ちていることに気が付いた。


一枚の封筒。



表書きに土汚れが付いていて誰宛に出した手紙なのかは判別できなかったし、裏返しても差出人は書かれていなかった。
この辺りに家はないから、きっと風で飛ばされてきでもしたのだろう。

少年は周りを見回して誰もいないことを確認してから、その封筒を開けることにした。
しかし、中に宝の地図などが入っているわけはなく、大して面白くもないような内容の文章が書かれていた。

「なんだこれ」


誰かに訊ねる訳ではなく少年は呟くと、そのまま手紙をクシャクシャに丸めて、思いっきり遠くへ投げた。

そして何事もなかったかのように再び駆け出した。
遠くに、手を振る友人の姿が見えた。

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2007年02月15日

刻む時間(後編)

***注意******

この記事は前編の続きとなっています。

また、こちらこちら を先に読まれることをお勧め致します。

***********



【刻む時間(後編)】




何故か・・・と問われても、明確な回答は出来ないかもしれない。

貸し金庫でなくても、部屋には自分でこしらえた家具も置いているから、特別保管に困りもしていない。だから、このまま、”布切れ”として置いておけば、それでも何ら問題はなかったのだ。


あのイェ・・・・・・
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2007年02月10日

刻む時間(前編)

アパルタメントに篭ってからどのくらい時間が経ったのだろうか。気が付くと窓から入ってくる光が、部屋を鮮やかなオレンジ色に染め上げていた。
そしてその光の一筋は、まっすぐ自分の手の中の服に差し込んでいる。


ずっと貸し金庫に預けていたこの服は・・・・・・流石にもう、着れた物ではなくなっていた。


ただの布切れ――常識を知らない輩が往来のど真ん中に捨てていくような、もしくは道具屋の主人に決して売り物にはならないからと【清掃用】としてただ同然で貰われていくような・・・。
そんな状態の、服と呼ぶにはおこがましいような布切れだ。

けれど自分は、この服を一度も捨てようとも売ろうとも思ったことはなかった・・・・・・1年と半年前からずっと。
いつか自然に綻びて波間に落ちるその日まで待とうと、最初はそう思っていた。
けれど自然に綻びていく服を見ていると、どうにか”服のまま”の状態で持たせたいと思わずにはいられなくなった。

いつか彼が戻ってくるその日まで・・・。


そしてこの服を貸し金庫に預けることにしたのだ。

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2006年10月20日

彼女が船に乗る理由(後編)

クリスティナ「私、船を降ります」

彼女は船の軌跡を見つめながら静かにそう言った。
話をしている最中は時折暗い表情を見せていたが、一息ついて吐き出したその言葉には、はっきりとした意思が込められていた。
月明かりに照らされたその姿は凛としており、そこに迷いを見つけることはできなかった。さながら彼女の視線の先にある、穏やかに凪いだ海のように。

そんな彼女の横顔を見つめていたら「もっと早く言ってくれていれば」という言葉が口に出せなくなり、そのまま飲み込んだ。多分、彼女がそうしたいと思っていたのであれば、もっと前に適当な理由を付けて依頼してきただろう。


ワキャック「そんな……。他の船員達もクリスティナさんがいなくなるって知ったら」

クリスティナ「酒の分け前が増えるって、喜ぶでしょうね」

ワキャックの言葉を途中で遮ると、彼女は座っていた木箱から軽い音をたてて甲板に降り立った。そして項垂れていたワキャックの前に立ち、小鳥がするように少し軽く背伸びをして頬にキスをした。
そして口をポカンと空けたまま固まった彼の肩をわざと強く押す。流石に彼は転ぶまではいかなかったが、ヨロヨロと後退った。そして次の瞬間「ぐはっ」と奇妙な声をあげると真っ赤な顔で頬に何度も手をやり、その手を凝視していた。


ケイロン「確かにクリスが船を降りたら、酒代は多少うくだろうな」

そんな様子に苦笑しつつ冗談めかすと、同じように彼女はこちらの方に進んできて―― 一瞬、胸が高鳴った。
が、彼女は目の前に立つと、少しだけ真面目な顔をして口を開いた。

クリスティナ「ケイロン船長。船長には感謝しています。私の我侭に付き合ってくれて。もっともケイロン船長の用事にも振り回されましたけどね」

ケイロン「ご、ごめん」

思わず口から出た言葉に、彼女は吹き出してクスクスと笑った。

クリスティナ「船員のみんなは船長のこんな所が好きなんでしょうね。危なかしいし、頼りがいがある訳でもない。けれど、まっすぐ。良くも悪くも……ですけどね」

ケイロン「いやいやいやいやいやいやいや」

クリスティナ「……そんな船長に最後のお願いをしてもいいですか?」

微笑みを浮かべたままだけれど、彼女の瞳はまっすぐに自分の目を見つめていた。
この状況、この質問にダメだと言える訳がない。
そんな自分の性格を彼女も重々承知しているのだろう。返事を待たずにそのまま続けた。

クリスティナ「今から私の言う質問に答えてください。もちろん、嘘はなしで」
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2006年09月28日

彼女が船に乗る理由(中編)

白い月が東の海から昇っていくのをずっと眺めていた。
この辺りの海域は比較的穏やかなので見張り役の数人以外は、皆眠りについている頃だろう。昼間は賑やかな甲板も、今は波の音以外何も聞こえなかった。
木箱に腰掛けて、ゆっくりと浮かび上がる三日月を眺めていて……

一筋の涙が伝い落ちた。


それは酒場の二階にある、あの部屋の天窓から射してくる月光と同じはずなのに、なぜこうもを……今夜の月明かりは冷たく、淋しい色をしているのだろう。


彼に………結局会えなかった。

当たり前と言えば当たり前の話だ。
この広大な海原、たくさんの港、鬱蒼と茂る木々、どこまでも続く大河。
どれ程の偶然が重なったら、ばったりと会えるというのだろうか。

彼が新天地にいるかどうかも分からない。ひょっとしたら、インドに向かっているかもしれないし、イスタンブールに潜入しているのかもしれない。
だから会えないであろうことは、最初から分かりきっていたことだった。


けれど、だからこそ。
もし『偶然』があるとすれば、それは偶然ではなく『必然』であると信じられると思った。


そして……。
私は、会えなかった。
多分、これが『必然』だったのだろう。


「クリス」


私を呼ぶ声がした。
慌てて髪をかきあげるような素振りで涙を拭くと、いつもの笑顔で振り返った。笑顔の仮面はいつだって本心を隠してくれる。


そこには真剣な眼差しのケイロン船長と副官のワキャックさんがいた。

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2006年09月22日

彼女が船に乗る理由(前編)

国王の勅命を受けカリブへ行き、調査を終えて戻ってきたのはもう1ヶ月近く前。彼女――クリスティナが船に乗ったは更にその前だったから……もうどのくらい経っただろうか。

今ではしっかりと……しているかどうかは分からないが、彼女なりに頑張っているようだった。
慣れない包帯巻きも、最初はミイラ作りでもするつもりなのかと思っていたが、今では怪我がどの辺りにあるのかが分かる程度にはなってきた。

最初は危惧していた船員達との関係も、上手くいっているようだ。
元々人付き合いは得意なのだろうし、持ち前の明るさと芯の強さで皆に好かれていた。
もちろん男だらけの船の中なので「好き」がエスカレートする可能性もある。注意するに越したことはないのだが、船員達も密かに卑猥な話をするぐらいで本気でどうにかしようとは思っていないように見えた。
もしそんな真似をしようとしたら、自分やワキャックがどういった対応をとるかは船員達にも伝えてあるし、彼女も大人しくしている性質ではない。
以前新入りが一人、彼女を貶めるような言葉を吐いたその晩。男はスープをひとさじ口に入れた瞬間に、そのことを後悔したそうだ。

「良く喋るその舌の為に、南米産激辛ソースをサービスしてあげたの、大量にね」とくったくのない顔で微笑んでいる彼女を横から見ながら、船倉から取ってきたであろうそのソースの値段を想像して、自分も頭を抱えるはめになった。


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2006年09月07日

ニシヘニシヘ

船医室の扉を開けた瞬間―――

「もう、いつになったら着くの!!!」

激しい言葉と共に、包帯が一巻き飛んできた。
声量もそうだし、ちゃんと額にそこそこの勢いで当たったので、船酔いは幾分かましになったらしい。
苦笑しつつ扉を閉めると、落ちた包帯を拾った。

ケイロン「調子は………どう……かな?」

怪我をした者が横になるベッドに片肘を立てて頭を抱えている彼女は、どう見ても良くはなかったが。

クリスティナ「もし私を見て、調子がいいように見えるのなら、貴方の頭の中を調べさせて。きっとこれからの航海の役に立てるでしょうから」

彼女は乾いた笑い声をあげたかと思うと、もう一巻き包帯を投げつけてきた。今度は力を篭め過ぎた為か、扉に当たって床を転がった。
仕方なくもう一度包帯を拾い上げ、小さくため息を吐き、包帯を握っていない方の手を鼻に当てた――言葉に詰まった時に無意識にやってしまう癖だ。


ケイロン「…………船は順調に進んでいる。ちょっと甲板に出てみる?」


クリスティナ「甲板に出たら、カリブの島々が見えるのかしら。いや、カリブじゃなくてももいいから、どこかの島を………島じゃなくても、鳥でも、船でもなんでもいいから!海と空と雲以外の物を見せてよ!!」


重症だ……。

新米船乗りがこんな風に荒れたり不貞腐れたりしているのであれば、色々方法もあるだろうが、彼女にそれがそのまま通用するとは思えない。
そして彼女の要求を聞くわけにもいかなかった。
島を見る為に進路を変更させれば、それだけ危険が伴う――島を根城にしている海賊の足元に飛び込んで行くようなものだから。
それに食料は魚を釣って調理すれば食べれるからまだしも、ゆっくり寄り道をしていられる程十分な水分は載せていない。


ケイロン「クリス……。約束その2、船の進路に……」

クリスティナ「文句を付けない、でしょ!? 分かってるわよ。でも、本当にちゃんと西へ進んでるの?またカリブへ向けて出航だなんて言いながら、ボルドーでシェリー造ったり、バルト海でドンパチやらかしたりするんでしょ!?んで、私はその間街で何日も待ちぼうけよね」


ケイロン「………」

確かに彼女を船に乗せた時は、カリブへ行く予定だった。
そしてカリブへ行くだけ行って、彼女の観光につきあって、欧州に戻ったら直ぐにでもお払い箱にするつもりだった。それで約束は果たせるし、彼女も満足するだろうから。
けれど船乗りからある噂を聞いてから、その予定は延期せざる終えなかったのだ。


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2006年08月18日

嘘と秘密と彼女とお酒

Cristy.JPG



「……ということで、これからケイロン船長の船に乗せていただくことになりました、クリス……ホルフィーナと申します」







それまで抑えていたのだろうが、彼女が口を開いた途端、甲板に集まった船員がそろって騒ぎ出した。
一瞬バレたか!?と冷や汗を流したが、そういう訳ではないらしい。シスター服に身を包み、うつむき気味に話していても、目深に被ったウィンプルの下から美しく整った顔がのぞいていたから、それに反応しているだけのようだ。


ケイロン「彼女は医者としての能力に優れている。貴族の娘として、幼い頃から医学を学んできたらしい。セビリアの医学スクールを首席で卒業した折り紙付きの才女だ。更には生態調査、工芸に関する知識も豊富だ。私の右腕として十分な働きをしてくれるはずだ」

下卑た声をあげている者もいる………まぁ今の所は予想と許容の範囲内だけれど。抑える所は早めに抑えておかないと、面倒なことになるのは時間の問題だろう。

ケイロン「えーー。彼女は基本的には船医室にいてもらおうと思う。言うまでもなく船長室の目と鼻の先だ。よからぬ事を考えるような輩には、後悔という言葉の意味を嫌という程味わってもらうことになるだろう」

そう言って口の端をあげ、意味深にニヤリと微笑む。

「ちぇっ、やっぱり船長のイトシイシトかよ」「船長も隅に置けねぇなー」などとボヤキとも冷やかしとも取れるような会話が聞こえてきた、というより聞こえるように言っているのだろう。

ここまでは上手くいっている・・・。

……だが。
嘘を隠す時の鉄則は、「本当の話に一部だけ嘘を混ぜる」ことだと聞いたことがあるが、鉄則うんぬんは置いておいても、実際彼女が医者として仕事をする時がくれば、すぐに嘘はバレるだろう。怪我人の右腕に上手く包帯を巻けるかどうかも怪しいもんだろうから。

この嘘は「とりあえず彼女を船に乗せる為のそれらしい理由付け」が目的だ。
そして嘘がバレた後の為の「船長のイトシイシト」という設定。
「船長のアレじゃあ仕方ないよな」と小指を上げる船員達は、嘘をついた理由についてこういう風に解釈するだろう。


……そして本当の「彼女が船に乗る理由」についてはそのうちうやむやになる。





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2006年06月06日

私掠と誇り(後編)

船を修理する為の木材は足りていたし街もそれ程離れていなかった為、ワキャックと二人、なんとか街に辿り着き停船させることができた。

街につくと、約束通り、彼は休憩所の椅子に座り、自分達を待ち構えていた。


−−−−−−−−


紋章のデッサン画が無くなった事に気がついた自分はすぐさま私掠の船に伝書鳩を飛ばした。「畜生!」と。

相手は船同士の戦い自体を楽しむような者ではなく、人の物を掠奪することで生計を立てている者だ。一度奪った品物をホイホイと返すようには思えなかったが、それでも「返せ」と叫ばずにはいられなかった。


あの紋章画だけは・・・・。


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2006年05月25日

私掠と誇り(前編)


ワキャック「後方ガレアス1隻!!襲撃だっ!!!!!!!!!」

目的地はまさに目と鼻の先にある岬だった。
入り江や岸壁の様子などを調査する為に船首に立ち、片手には既に望遠鏡を持っていた。船員達は『地理調査』という慣れない、新鮮な仕事で浮ついていたが、自分自身も高揚していたので気にも留めていなかった。
そして荒くれ達が商売していることで有名なラスパルマス付近を無事に抜けれたということのも、後から考えれば油断していた理由だろう。

ケイロン「転舵っ!い、いや、直進そのまま!逃げ切れ!!!!」

心の隙を突かれ、判断を誤らせた。
ガレアスだ・・・・撃ってこない、と。

そしてネーデル私掠は静かに、船首砲を発射した。
轟音と共にまっすぐ放たれた砲弾には鎖がついていた。灰色のアーチは空を切り、油断していた船尾を直撃し深く抉った。急速に船足が落ちる。

船員「船長、舵も壊れました!!!」

それを聞いた船員達が一斉に泣き声にも怒声にも聞こえるような言葉で叫びだした。一瞬にして甲板は混乱の渦に巻き込まれた。
このままではダメだ・・・・・だが、諦めるつもりはなかった。
悲嘆に暮れることは後でも出来る。
まだ出来ることがあるはずだ・・・・。

ケイロン「慌てるな、進路そのまま!!ワキャック!近くに回航中のポルトガル海軍に連絡だ!至急応援求めろ!他の船員達は威嚇の為の機雷を撒け!援軍がくるまでの辛抱だ!!」


冷静になれ、と自分自身に言い聞かせる。
けれど心の臓は早鐘を打ち続けている。
逃げ切れる可能性は決して高くない。ポルトガル軍が近海にでもいてくれれば・・・・。

ワキャック「船長!!!ポルトガル王立軍より連絡です。至急援護に向かうと!すぐ近くにいるようです!!」


幸いにも援軍はなんとか間に合った。

助かる・・・・。船足はかなり落ちてはいるものの、水平線の向こうより現れたポルトガル軍を前に安堵のため息を吐く。。。。
しかし、戦いが終わった訳ではなかった。ポルトガル軍の登場により退却してくれるような相手ではないことは明らかだった。
このジーベック船【Ship Of Asklepios】のすぐ背後には敵艦が迫っていた。

そして、ちょうど味方艦隊と船首同士がすれ違うというその時。
ネーデル私掠は嬌声をあげながら乗り込んできた。

そして次の瞬間、戦いは終わりを告げられた。

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2006年03月25日

ロンドンの酒場で、ある女性と

ゆっくり扉を開けて周囲を見渡してみたが、まだ彼女は来ていないらしい。
マスターに「いつもの」と言って、入り口近くの席についた。

彼女からの伝書カモメが届いたのは今日の昼間のことだ。
たまたまロンドンの近くを回遊していていたので、「近いうちに会えないか?」というその内容に二つ返事で答えた。
しかし彼女とは数回一緒に冒険にいった仲だったが、こうして手紙をもらうことは確か初めてではなかっただろうか。
手紙ではなく実際に会って話したい。しかも他の誰でもなく自分に話したいことがある・・・・・・・・・ということだろうか………。

高鳴る胸の鼓動を押さえつつ一杯やっていると、彼女は微笑みながら酒場に入ってきて軽く手を振った。すっきりとした軍事用コートを身に着けている。この時点で、少し思い描いていた展開とは違うことが分かった。

彼女の用件は「ちょっと急ぎの野暮用があって今から出かけてくるが約束の砲台を男が渡しにくるから受け取っておいてもらえないか?」ということだった。
静まる胸の鼓動に苦笑をしつつ了承した。
――― しかも面と向かって会えない理由のある相手、ということなのかも知れない。


そしてそのまま酒場で待っていると…………そこに知った顔が現れた。
苦笑しつつ、彼女に砲台を受け取るように言われたことを男に伝えると、彼は落胆するでもなく「では、よろしく」と言って随分とどっしりとした袋―― 多分大量の金貨が入っているのだろう。数億ぐらいあるかもしれない―― と、大砲の預り証を3枚寄越した。
本体は出航所に預けてあるのだろう。

−−−−−−−


「確かに1億Dと大砲の預り証1枚を預かったよ」とその後再び現れた彼女に冗談を言ってみたが、彼女は微笑みを浮かべたまま何も返さずに袋と証書4枚を受け取った。
そして「あら?1枚多いようだけど」と彼女は言い、「御代は船長からいただきましたので」と答える。
出来たてホヤホヤのファフニール像の引換券ってやつだ。その両目にはとびっきりの琥珀が輝いている自信作だ。
すると彼女はありがとうと微笑んで、「じゃあお礼に、鳥の丸焼きを船へと配達しておくわ」と答えた。

砲台は海事訓練に使うつもりらしい。
待ちわびたオモチャを買ってもらって嬉しいという子供のような笑顔で、彼女はそう語っていた。
その砲撃の腕が確かな物であることは既に知っていたが、『上』に認められるのはそれ相応の成果というやつが必要なのだろう。
相手にする海賊もかわいそうに、と密かに笑った。

とそんなことを話しているうちに、酒場の扉が開き一人の優男が現れ、まっすぐにこちらにやってきた。
私の副官なの、と彼女は自分に紹介をした。一見しただけで、優秀な学者タイプの男だと思った。そろそろ出航時間だと告げにきたらしい。伝えるだけ伝えると、自分に軽く会釈をしそのまま出て行った。
ただの勘だったが―――彼は本当にタダの副官なのだろうか、と思った。去り際にさっと自分の姿を値踏みしていたように見えたからだ。
彼女は気が付いていないのかもしれないが、あの副官君ひょっとしたら・・・・・・。


「彼のこと、ジャッキーは知ってるの?」


と囁く自分に「彼は馬鹿だから」と口に手を当てて笑った。
………女は怖いな、と思った。

あとがきを読む
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2006年03月23日

災いのカード(後編)

ケイロン「しっかりしろ!!あれはセイレーン、怪物の声だ!!!」

さっきから大声で叫んでいるのだが全く効果がない。
数人で抑えこんでいるので海に落ちるまではいってないが、その状況でも男は足掻いて抜け出そうとしている。

船員「あの娘の声だ!間違いない、俺が聞き間違えるはずがない!!ほら、あの波間の陰に何か見える。あそこにいるんだ!!俺がなかなか帰ってこないもんだから、泳いで迎えに来たんだ。
けど、すぐに行かなきゃあいつは溺れちまう。はなせ、はなせよ、あほんだらぁ!!!」

必死の形相で叫ぶ男は、月明かりに照らされた波間に浮かぶ何かを目で必死に追っていた。それは異様に血走っている。
明らかに正気ではないのは分かっているが、あいにくセイレーンの声を塞ぐのに適した真綿の耳栓ももっていない。
力ずくで押さえるしかないのだが……。

その時、背後で船員達のどよめきが聞こえた。
止める間もなく、新たに魅了された船員が一人、反対の船側から飛び降りたらしい。
自分と一緒に男の腕を押さえていたワキャックが慌てて手を離し、近くの救命具を掴むと走り出した。
浮き輪を投げた所で落ちた船員がそれを掴むとは思えなかったが、無駄だと分かっていても、そうせざるをえなかったのだろう。

ケイロン「一体、どうなってるんだ!!!」

どんなに大きな叫び声も、セイレーンの歌声をかき消すことは出来ない。
既に歌声に魅了された数人の船員達は、甲板の至る所で他の船員達に囲まれて押さえられているが、これ以上増えたら。。。。

そんなことを考えているうちにその1団――魅了された船員とそれを止めようとしていた船員達数人が、全員一斉に奇声を上げだした。
そして他の船員達が走り寄るのを待たずに、一斉に歓喜の声をあげながら、"自分の意志"で暗い海に飛び込んだ。
最初に魅了された船員はおろか、止めようとしていた船員達も同じように魅了されてしまったのだろう。
どうしようもなかった。

今までにもセイレーンに遭遇し、その歌声惑わされて海に飛び込んだ者はいた。それでも1回につき1人か2人ぐらいだっただろう。
これ程までに多くの者がセイレーンに惑わされたことなど1度もなかった。
そしてこの歌声はなかなか途切れず、結局プリマスの港町の入り江に近づくまで続いた。
……結局セイレーンの元へ逝ったのは10人を越えていた。

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posted by ケイロン at 13:14| Comment(0) | TrackBack(0) | ケイロンの航海物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月22日

災いのカード(中編)

ワキャック「勇んで喧嘩の仲裁を買ってでたんですが、男前が台無しになっちゃいましたよ、ハッハッハッハッハ」

聞いた話によると、船員同士の些細な言い争いから発展して喧嘩となってしまったらしい。良くある話だ。
自分がワキャックに呼ばれて甲板に出てきた時には当の二人は、既に落ち着いているらしくワキャックに対してすまなそうな顔をして詫びていた。
見た目程痛くはなかったんですけどねぇ、と笑うその目の周りは"犬のぶち"のように青黒くなっている。
以前古参の船員にワキャックについて聞いた時に「見掛けによらずに腕っぷしもそこそこある」と言っていたが、その笑いを引っ込めた時にどのような表情を見せるのかは、その船員も見たことがないらしい。
触らぬ神にというやつだろうか―――どんな神なのかは微妙だが。

ケイロン「二人は罰として、1週間二人だけで甲板磨きだ」

自分の通告に二人は神妙そうな顔で頷いた。

ケイロン「しかし兎に角、刃傷沙汰になる前に喧嘩は収まったのは良かった。
下手したらただの喧嘩が更に発展することだってあるんだから……」

そんなことを思いながら……、やはり頭をよぎったのはあのタロットカードのことだった。
美しい月の絵が描かれた『不安』を暗示するタロットカード。
まさか……と思った。
そんな直ぐに、てき面に効果が出る訳がない。

けれどその直後、そんな思いを吹き飛ばす程の、物凄い突風が吹いた。
船は風に煽られて、大きく傾く。慌てて近くの手すりを掴んだが、船員の中には体制を崩して転倒し甲板を転がる者もいた。
そして船の舳は大きく右を向き、今までの進路から90度、陸に向かって直進し出していた。
沿岸を進んでいたのが仇になった。急がないと座礁してしまう可能性も充分に考えられる距離だ。

ケイロン「操舵手!至急立て直せ!!!」

叫ぶと同時に舵のある場所に視線を移したが、そこに操舵手どころか誰もいなかった。
慌ててワキャックが走り出す。

船員「す、すみません!!」

操舵手は舵の前を離れており、甲板に転がった状態から肩を押さえながら起き上がろうとしていた所だった。しかし肩を痛めたのだろう、手で押さえて顔をしかめている。
喧嘩の騒ぎで持ち場を離れていたのだろう。
ワキャックが代わりに舵をきったおかげで、船の舳はゆっくりと元の進路に戻ろうとしていたが、船足はそれまでもそこそこ出ていたのに加えて、突風の影響で更に速度が出ている。
座礁はしないまでも船底を擦るぐらいはするかもしれない。


・・・・・・突然の突風も、たまにはあることだけれど……タイミングが悪過ぎやしないだろうか。
「いや」と、すぐにかぶりを振った。偶然に偶然が重なっただけだ。有り得ないことではない。

それでも、頭の隅の方であのカードの月が色鮮やかに主張している―――『ほら予言の通りだろう』と。


船は気が気でない程に岸に近づいたが、幸い海底が深かったようで座礁はせずにすんだ。
もちろん目的地のロンドンについたら造船所のやつらに船底の確認はしてもらった方がいいだろう。下の方で鈍い音が何度かしていたから。
まぁ、それでも座礁さえしなければ問題ない。
荷崩れもせず、被害も多少の怪我人だけで、海に落下した船員がいなかったのも救いだ。
不幸中の幸いというやつだった。

いや、これで終わっていれば不幸中の幸いだったと言えただろう。



――― 日も暮れ夜の帳が降りた後。災いは三度やってきた。
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2006年03月18日

災いのカード(前編)

ワキャック「えーーー、本日はお日柄も良く……絶好の航海日和ですね。こんな晴れた日には一日ゆっくーーーり過ごしたい所はやまやまですが。
あいにく周りは海ばっかりで山なんて見えませんねぇ、ははははは」

もちろん誰も笑っていない。
そしてそれに対して船員達は苛立っている様子もなく、皆何事もなかったかのように聞き流しているようだった。
『慣れ』というやつだろうか。

ワキャック「えーと、では今日の倉庫番責任者は、船倉の様子を報告してくださーーい。ってオイラやんか!!!
えーーと異常なし!!!!……………だと思います♪」

ケイロン「(だと思うってのは何だ……)」

語尾に小さく付け加えた言葉は自分にしか聞こえなかったかもしれない。
いや、自分にだけ聞かせた言葉なのだろうか。なぜかこちらを見て片目を閉じて見せた。
冗談ですよっていう意味なのだろうか……それにしても理解に苦しむ冗談だ。

ケイロン「……ワキャック、あとで船長室に来てくれ」
ワキャック「お!再び昇進ですか?次は船長になっちゃったりなんかして!?」

口も開かず、船長室に戻るための階段を下り始めた。

なし崩し的に副官に任命してしまった彼だが、それに対して船員達からの苦情は来なかった。
――― 本当に意外なことに。
それで古参の船員達や新入り達を個別に呼び出し、この件に関して問い掛けてみたのだが、回答は皆ほぼ同じだった。

「あいつは鬱陶しいが、悪い奴ではないからなぁ」

と、苦笑しながら答える。その顔には、どれも親愛の情を感じられた。
彼のことだ。新旧老若を問わず誰とでもあのペースで接し、呆れられ、けれど憎めずに、許されてしまうのだろう。
ある意味、羨ましい性質だ。
しかし、副官としての資質はどうなのだろうか。
確かに、どういう形にせよ皆に慕われているというのは、副官にとって大切なことだろう。
けれど船長である自分をサポートする役割を果たして彼がこなす事ができるのだろうか。


−−−−−−−−−−


嫌な予感はしていた―――。


本来、占星術やら聖霊なんて物はどこまで信じていいのか怪しいもんだと思っている。
星は今後の未来やら何やらを教えてくれる物ではなく、北はどちらか、船がどのくらいの速度で進んでいるかを確認する為の物だ。
嵐の夜なんかは神様になんとか無事に乗り切れるようにと祈ったりする。けれど、いくら自分が敬虔な信者だったとしても、帆を畳まずにやり過ごそうとすれば海の藻屑となるだけだと思っている。
当たり前なことだし、こんなことを書くと敬虔なクリスチャンに怒鳴られるかもしれないが。
万能な神様だって、ホイホイと安請け合いして手は貸してはくれない物だ。
迷える子羊に自分の力で困難を乗り切る知恵を与える為なのだろう。

と、そんな話はさて置いて、気にすべきこと、いや"すべき"かどうかは判断を付けかねているのだけれど、とりあえず気になるのは手に持っている1枚の紙だ。
先日、ヴェネツィアの教会の近くで占い師に「試しにどうぞ」と話し掛けられ、こちらがどれを取ろうか迷っている間に横からワキャックのやつが勝手に選んだ封筒の中に入っていたものだ。
今朝封筒から出したそのタロットカードと呼ばれる紙が、いま航海仲間達の間で流行っているのは知っていた。
そのお告げは「驚く程当たる」という評判だった。けれど自分はそんな噂を、それ程には信じていなかった。
「幽霊の正体見たり、枯れ尾花」ってな言い回しはどこの言葉だったかよく覚えてないけれど、こういう悪いお告げなんてのを信じていると「何でもかんでもタロットカードのお告げの通りだと思えてくるだけだ」と思っている。
生きていればたまには悪いことだってあるもんだ。


――― そう。その封筒の中には、美しい月の絵が描かれたタロットカードと一枚の解説書が書かれていた。
解説書の言うことには、この『月のタロットカード』の絵は『不安』という意味を持つカードらしい。

信じてはいない。
もっと直接的な『死』やらを暗示している訳でもないのだから、それ程気にする必要もないだろう。
けれどあの時、ワキャックの選んだ封筒を返して、自分で選びなおしていれば………。
信じてはいない。
信じてはいないけれど、何か起きたとしても、多分たいしたことはではないはずだ。


――― 『月のタロットカード』のお告げの結果どうなるのか、この時はまだ不明だった。
けれど後で考えた時、一つだけ確かなことは、既にこの時からこのカードが暗示している通りに自分は『不安』にかられていた。


そして―――。
ドタバタという足音と共に遠くから名前を呼ぶ声が聞こえ出した。ワキャックだ。
やっと来たかと待ち構えていたのだが……。
いつものように激しい衝撃と共に開いた扉の向こうに現れたその顔には―――大きな痣が出来ていた。






posted by ケイロン at 11:01| Comment(0) | TrackBack(0) | ケイロンの航海物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月03日

副官を探せ!(後編)

酒場の扉が勢いよく開き、――― 勢い良すぎて酒場の壁にぶつかった。
開け放たれた入り口には逆光を背に一人の男が立っていた。

「船長ぉーーーーーーーー!!!!!」

すぐさま顔を背ける。
可能であれば他人の振りをしてやり過ごしたい所だったが、まっすぐに自分のところへ駆け寄って来たのでそうも言っていられなかった。
それでも彼と目を合わせたくはなかったので、顔はそのまま、まっすぐにマスターを見ていた。
見られているマスターも苦笑しつつ、今現れた船員に挨拶をしていた。

船員「っと、で。船長ってば、聞いてますか?き・い・て・ま」
ケイロン「聞こえてる」

彼の苛立たしい言葉を遮り、短く吐き捨てるように言い放ち、横目で睨みをきかせたのだが、一向に気に止めていない。
そんな調子だから、周囲から一斉に特異な目で見られていることにも気付いていないだろう。
『我が道を行く』『Going My Way』と言えば聞こえはいいが、彼の場合は目の前の物しか見えていないのだろう。
目の前に人参を釣らされて走り出した馬のように……。
馬……。彼が馬だとして、じゃあ彼の目の前に吊り下げられている人参は何なんだ……?

船員「聞いてくださいよ!!あのですね、オイラ……」
ケイロン「………船に戻ってゆっくり聞く」
船員「今すぐにですよ!と、マスター、マスター!マスターもちゃんと聞いてくださいよ!実は………っ!」
ケイロン「副官のことか?」
船員「そうそうそうそう、そーなんです!実はっ!」
ケイロン「雇わない」
船員「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

今度こそ酒場にいる全ての人間が彼を一瞥したことだろう。
マスターの隣でイレーヌは相変わらず妖艶な微笑をしているが、彼女の取り巻き達は明らかに迷惑そうな顔でこちらを見ていた。
一瞬手を腰元の剣に伸ばそうかとも思ったが、寸でのところで留まった。
以前にもここでは大立ち回りをやらかしている。流石に二度目をやってしまった日には、マスターも黙ってはいないだろう。
怒りをなんとか抑えながら、船員をまっすぐに見る。

ケイロン「探していた考古学者の卵がいなかったので雇おうにも雇えないんだ。確か他の街にも同じような男がいたはずだから、そちらを当たるつもりだ。
それでまだ何か自分に対して質問したいことがあるのか?」

船員「いや、オイラが『えーーー』って言ったのは、そういう意味じゃなくてですね」

ケイロン「心配しなくても副官は雇う。船を纏める人間が自分以外にも必要だとは思っている。
君達船員が納得するような人物を雇うつもりだから心配しなくていい」

船員「だから、ちょっと待ってくださいよ。あのですね。自分が言いたいことはですね」

酒場マスター「で、お前さんがその左手に持っている紙はなんなんだ?」

いつまで経っても会話が成り立たない二人にマスターは助け舟を出すことにしたらしい。
言われて気が付いたが、確かに船員は一枚の羊皮紙を持っていた。
一般市民にとって羊皮紙は割と高価な物だ。うちの船員が何故そんなものを持っているんだろう?

船員「流石マスター!聞き上手ですねぇ。気になります?見たいです?」
酒場マスター「おぉ、思わせぶるなぁ。ぜひ見せてくれないか?」

マスターは丁寧に彼のペースに乗ってやることにしたらしい。
その辺が酒場のマスターという仕事で必要な話術というやつなのだろうか。

船員「これ。マスターもよく知っているでしょう?」

そう言って手渡した紙を見て、マスターの顔から笑顔が消えた。
口を半開きにしている―― 心底意外だというように。
その紙と船員の顔を交互に見ていた。

船員「本当は規約ではギルドの人間が直にマスターに渡さないといけないという掟とか言ってましたけどね。
担当官の話が長そうだったんで、紙だけ貰って途中で逃げてきました。ははははは」

彼は何の話をしているのだろう。
さっきまで副官、副官と言っていたのに………その時、何かがひっかかった。
ギルド?担当官?

船員「面接の後にも結果が出るまでに時間がかかったし、更にこの書類が出来るまでも待たされましたよ。
で、ようやく今日、発行されたんです。ほら、写真もなかなか男前に写ってるでしょ?」

面接?発行?写真?

船員「まさか『考古学者になれる』なんてお墨付きをもらえるとは思ってもいなかったですけどね。
うちの船長ですら、まだ考古学者なんて呼ばれる存在ではないんですから。はははは」

考古学者?お墨付き?

酒場マスター「いやぁ、人は見掛けに寄ら………っと。しかし凄いもんだなぁ。ねぇ、船長」

マスターが同時に船員の羊皮紙を手渡しながら、そう言ってこちらに話を振って来た。


『彼が馬だとして、じゃあ彼の目の前に吊り下げられている人参は何なんだ……』


羊皮紙には目の前にいる船員の写真が貼ってある。本人の物だ。
そして、紛れもなく冒険ギルドの印章が押された、副官資格の証明書だった。
彼が『考古学者』の素質があると認める証明書だ。

酒場マスター「しかし船長もこんな優秀な部下がいて良かったじゃないですか。これでこれ以上副官を探す手間が省けましたね。
『灯台もと暗し』ってのはまさにこのことだ」

ケイロン「………い、いや、誰もこいつを副官に採用するとは………」

船員「船長が先に”これ!”という他の副官雇っちゃったらどうしようかと思いましたよー。
このワキャック!今まで以上に船長の為に身を粉にして働きますので、宜しくお願いします!!」

ケイロン「いやいやいやいや………」

芝居がかった敬礼をする船員を見て、思わず頭を考え込む。
頭が痛くなってきた。
よりによって、この船員を、副官に………?

酒場マスター「では副官昇進を祝して、俺からのお祝いだ」

マスターはグラスに並々とブランデーを注ぎ、船員に手渡す。
船員は歓喜の声をあげてグラスを持つとと嬉しげに、「副官♪副官♪」妙な音程で酒場の中を歌い周り始めた。
もちろん奴は、まだ一口も酒を口にしてはいない。素でこれなのだ。
そんなやつが、うちの、副官に………?

酒場マスター「そして、これは船長への、、、、まぁ、何と言うか、頑張れよ」

妙な励ましの言葉と一緒に差し出されたのは、緑色の液体――酔い覚ましだった。
その匂いだけで顔をしかめるような強烈なやつだ。

酔い覚まし.jpg



確かにこれが酒を酔って見ている悪い夢だとするならば、早く覚めて欲しい……。
そう思いながらそれを一気に飲み干した。

あとがきを読む
posted by ケイロン at 08:30| Comment(0) | TrackBack(0) | ケイロンの航海物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月28日

副官を探せ!(中編)

アムステルダム……ロンドン………リスボン………セビリア……。
マルセイユ、ジェノバ、ナポリ、チュニス、ヴェネツィア、アテネ。
最終的には、イスラム教国であるアレクサンドリア、果てはイスタンブールまで潜入した。

けれど、心に響いてくる副官候補者はいなかった。

確かに将来有望と認められた者達だけあって、それぞれに魅力的な一面を感じることはあったが、最終的に雇用すると決めるのは「何か」が欠けている気がした。
その「何か」が何なのかは、漠然とだけど分かっている………分かっている気はする。
そしてそれが自分の思う通りの「何か」だとしたら、いくら副官を探し回っても無駄だということも。

で、あれば、自分が選べうる選択肢は二つだ。
一つは、副官など雇わないという選択。
もう一つは、「何か」を意識せずに、ベターだと思う人物を雇うという選択。

いや、本当は一つしか選択肢がない、か。
「何か」に漠然とでも気がついた時点で選択肢は一つに限られていた。


−−−−−−−−−


ケイロン「フィルマンという男がいたと思うんですが。考古学者の素質があるという、確かフランス国籍の青年なんですが」
酒場のマスター「あぁ、ちょっと待ってくれよ」

マスターはカウンターの下から羊皮紙の束を取り出して、バサバサと捲り始めた。
1枚に1人ずつ名前から顔写真、特徴、連絡先などが記載されているらしい。

酒場マスター「ここん所、大勢の航海者が酒場にやってきては雇用していくんで、なかなかすぐに資料が見つからなくてねぇ」
ケイロン「それでも少しは落ち着いたようですね。以前来た時にはマスターの周りに人垣が出来てましたよ」
酒場マスター「すみませんねぇ。そこいらの掲示板に張り出しとけばいいんだろうが、そうすると仲介料がもらえないもんで」
ケイロン「普段から大勢の船乗り達に囲まれてるイレーヌの気持ちが分かったんじゃあ?」

そう言って笑うと、マスターは「本当に」と頭を掻いた。

酒場マスター「えーと、フィルマン、フィルマン……フ……おや?」

小首を傾げると、マスターは再び最初のページから紙を捲り始めた。

酒場マスター「ひょっとしてもう他の船長に雇われちゃったかもしれないなぁ。。。なんせ考古学者の卵先生だからねぇ」

まぁ、ある程度予測していた回答ではあった。
冒険家であれば、サポートをしてくれる副官が有能な冒険者の卵だと言われれば、惹かれるだろう。
もちろん「卵」で終わる可能性も充分に考えられるわけだが。
それでも「考古学者」という名札は魅力的だし、事実自分が彼を雇うことに決めたのもそれが理由だ。

酒場マスター「えーっと、どんな顔だったか覚えてるかい?」
ケイロン「い、いえ。人の顔を覚えるのは苦手で・・・・」
酒場マスター「んーー、そうだなぁ。。。。やっぱり・・・・ないみたいだなぁ」(※1)
ケイロン「そうですか。。。。ありがとうございました」

いない者は仕方ない。
諦めて船に戻ろうとした、その時。

そこに見覚えがある顔が現れた。


(続く)


注意事項を読む
posted by ケイロン at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | ケイロンの航海物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月27日

副官を探せ!(前編)

「船長!船長!船長、船長ぉ〜〜〜!!」

ドタバタと激しい足音を立てて、随分遠くから自分を呼びながらこの部屋目掛けて駈けてくるやつがいるようだ。
基本的に船員達の名前は覚えようとしても覚えられないので覚えないことにしているので、こいつが何という名前なのかはわからない。
けれど、既にこの調子で何度も船長室に飛び込んでくる物だから、しっかりと顔は覚えていた。
あと3……2……1……。

船員「船長ぉーーーーーーーー!!!!!」

カウント0と同時に威勢良く開け放たれた扉は、飛び出してきた男の力で壁におもいっきりぶつかった。
既に扉の蝶番が緩み始めているのではないだろうか。。。。

ケイロン「………今日は、どうしたんだ?」

船員「あのですねぇ!最近、この地中海周辺の各国は、航海者が大人気という話は知ってます?
一攫千金も夢じゃないですし。というかうちの船長ぐらい立派になると、普通に陸の者達とは比べ物にならない程に稼いでますもんね。オイラも早くそんなに大金を稼いでみたいもんです」

ケイロン「………で、用件は?」

船員「おっと話がちょいとズレましたが、兎に角、航海者は人気なんですよ。けれど……この続き、気になります?」

この続き、気になります?(船員談)
posted by ケイロン at 12:26| Comment(2) | TrackBack(0) | ケイロンの航海物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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